ありがとう(山本直樹)「家族とは?」あえて難しいテーマに挑んだホームドラマの名作です

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【作品データ】

作品名ありがとう
作者山本直樹
連載誌ビッグコミックスピリッツ(小学館)
連載期間1994年(平成6年)~1995年(平成7年)
単行本全4巻
電子書籍あり

 

【作品概要】

暴力・殺人・ドラッグ・SEX・癒着・リストラ・いじめ・登校拒否・アル中・新興宗教・不治の病…。

もし、あなたの家族に、これらのトラブルが次々襲い掛かったとしたら、どうしますか?

この漫画は、ある家族の崩壊から、自分たちの「家族の形」を取り戻すまでの過程を描いた作品です。

あり得ない?

いえいえ、「闇」は、どこの家庭にも潜んでいるのですよ。

 

高校生と中学生の年頃の娘2人と専業主婦の母、そして単身赴任中の父。

どこにでもあるような、ごく普通の家庭。

しかし、単身赴任を終え帰宅した父親が見たものは、崩壊した家庭の姿でした。

どこの家庭にも潜んでいる「闇」が顕在化してしまった家族を救おうと、孤軍奮闘する父親の姿を描く物語、と言えば聞こえは良いのですが…。

最終的に彼らが辿り着いた「家族の形」とは?

ある家庭の崩壊から再生までを赤裸々に描いた本作「ありがとう」は、「家族とは?」という難題について1つのモデルケースを示してくれています。

決して目をそらさずに、最後までお読みいただきたい「名作」です。

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本作の見所①(第1巻 長女・昌子)

本作「ありがとう」の主要な登場人物は、次の4名です。

  1. 父親・鈴木一郎(サラリーマン、単身赴任から帰宅)
  2. 母親・鈴木さくら(専業主婦)
  3. 長女・鈴木昌子(高校生)
  4. 次女・鈴木貴子(中学生)

この4人が様々なトラブルを抱え(トラブルに巻き込まれ)鈴木家が崩壊し、また再生していく過程が描かれているのですが、それに合わせるかのように、コミックスも全4巻で構成されています。

さらに、都合よく各巻ごとにメインとなる登場人物が異なっているので、本作の見所を紹介するにあたっては、各巻ごとに分けて、それぞれの登場人物にまつわるエピソードを紹介していく形式で進めていきます。

但し、きっちりと各巻ごとに分かれているわけではなく、その他の家族のエピソードも混ざっていますが。

 

最初の第1巻で中心となるキャラクターは、長女の昌子です。

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(©山本直樹/ありがとう 第1巻)

 

え~、冒頭でも紹介したとおり、本作は人間の「闇」の部分を描いている漫画であるため、結構なエロ・グロ描写や暴力的なシーンなどが多いです。

そして、そういった描写が最も多いのが、この第1巻になります。

ですから、第1巻を目を逸らさずに読み切れるかどうか?が、本作の面白さを理解できるかどうか?に直結すると言ってもいいでしょう。

【第1巻 あらすじ】

単身赴任中だった父・一郎が、赴任先の北海道から久々に帰宅します。

ところが、帰宅した一郎がリビングで目撃した光景は、なぜか家に居座っている不良たちと、その不良たちに犯されている長女・昌子の姿でした…。

鈴木家の長女・昌子は、名門女子高校に通う優等生です。

しかし、ある日自転車で街に出かけた際、不良たちに騙されて輪姦されてしまい、さらに薬物を飲まされ性の奴隷として飼いならされてしまったのです。

ここから、鈴木家の家長である一郎と不良たちの闘い、さらには世間との闘い、そして家族との闘いが開始されます。

 

第1巻では、昌子をドラッグから更生させ、不良たちから解放するための父親・一郎の奮闘がメインで描かれています。

但し、もちろん一筋縄ではいかず、不良グループ(の父親)と警察との癒着や自身の暴行容疑での逮捕、昌子との葛藤なども経て、最終的に平穏な生活を取り戻した、かに思われたのですが…。

この後、不良たちに撮られた「いやらしい写真」が原因となり、学校でイジメにあう昌子。

そして登校拒否と自殺未遂。

さらに、一郎自身のリストラ問題が発現することになります。

 

先ほども述べた通り、第1巻では性描写とドラッグ、そして暴力行為などが多く描かれています。

それらを緩和するためか、一郎の奮闘ぶりがコミカルに描かれるシーンもあるのですが、他の描写の印象が強烈すぎて、免疫のない読者であればトラウマになってしまうことも考えられる内容となっています。

年頃の女子高生が陥りやすいワナと一般社会の暗部を赤裸々に描き出している第1巻は、山本先生がわれわれ読者を試す「巻」として描かれたとしか思えないのです。

「この描写に耐えられない人は、この漫画を読まなくてもいいですよ」と。

 

本作の見所②(第2巻 次女・貴子)

本作の主人公は鈴木家の父親である一郎氏なのですが、家族側でメインとして描かれているのが、次女の貴子です。

ですから、貴子は最初から最後まで、それなりに見せ場が多くなっています。

ただ、敢えて言うなら、貴子中心の構成となっているのは、この「第2巻」であると言えます。

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(©山本直樹/ありがとう 第2巻)

 

ちょっと斜に構えて何事にも冷めた態度と目つきで応じる中学生の貴子。

それは子供にありがちな「背伸び」した自分を見せているだけかと思いきや、この娘さんは、精神的にとてもタフな女の子なのです。

【第2巻 あらすじ】

リストラされた一郎の再就職は決まったものの、長女・昌子の登校拒否が継続中の鈴木家。

そんな中、不良たちがのさばっていた家の中でも、ひとり「無関係」を装っていた貴子…、でしたが、実は、不良グループのリーダーに「自慰行為をする写真」を撮られていたのです。(但し、SEXはしていません)

そして、その写真が原因となり貴子も中学校でイジメにあってしまい、さらには父親とも衝突する始末。

学校にも家族にも愛想が尽きた貴子は、遂に家を飛び出します。

その向かった先は、かつて、昌子を慰み者にした不良グループのリーダーの元でした…。

 

貴子の自慰行為を写した写真が雑誌に投稿されてしまい、それが同級生や父親の目に触れてしまったことで、貴子のトラブルが始まります。

但し、同じような理由でイジメにあった昌子は登校拒否&自殺未遂という行動に出たのに対し、貴子の方は学校に通い続けます。(でも、ずっとイジメは続きます)

この辺りの姉妹の対比は、「あなたは、どちらのタイプか?」ということを読者に問いかけているとも言えますし、正解のない「イジメ問題」について世に問うているとも受け取れます。

 

この第2巻は、最も多感な年頃である貴子の心理描写に重点を置いて描かれており、学校や友達に対する考え、ちょっとアブナイ事や性に対する好奇心、そして家族(父親)に対する思いや反発が手に取るように分かる構成となっています。

その一方で、父親である一郎の娘に対する心理も克明に描かれているため、どちらの立場の読者であっても共感できる内容と言えるでしょう。

最後は、一郎とケンカをして不良グループのリーダーの家に転がり込んだ貴子を、一郎がかっさらいに行く場面で第3巻へ続きます。

 

尚、第2巻には、貴子のエロいシーンが結構ありますので、念のため。

 

本作の見所③(第3巻 母親・さくら)

さて、ここまで全く登場しなかった鈴木家のお母さん・さくらが、第3巻のメインキャラクターになります。

不良たちが我が物顔で鈴木家を占領していた時も、昌子が登校拒否になったときも、貴子が家出をした時も、お母さんは家に居ました。

ただ、父親の不在中にアルコール依存症(アル中)に陥り、いわば「世捨て人」のような生活をしていたのです。

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(©山本直樹/ありがとう 第3巻)

 

一郎が帰ってきてからも、隠れてはお酒をチビチビやっていた母親のさくら。

専業主婦であるにも拘わらず、家事もあまりせず子供たちの面倒もほとんど見ない彼女に、ある時、転機が訪れるのでした。

【第3巻 あらすじ】

半ば無理やり不良グループのリーダーの家から貴子を連れ戻した鈴木家でしたが、相変わらず登校拒否を続ける昌子、反抗期真っただ中の貴子、そしてアル中のさくら、と問題は山積みのままでした。

そんな中、ある時期から母親のさくらがちょこちょこ外出するようになり、それにつれて、家事や子供たちの面倒も見るようになっていきます。

何より、性格が明るくなり、何かが吹っ切れたようにお酒も飲まなくなったのです。

ところが、それに比例するように外見が派手になり、金遣いも荒くなっていくさくら。

当初、「不倫では?」と勘ぐっていた娘たちでしたが、母親がハマってしまったのは…。

「新興宗教」でした。

 

精神的に参っている時や悩み事などに心が支配されている時、そのスキマに入り込むように忍び寄ってくるのが「新興宗教」です。

尚、ここで言う「新興宗教」とは、宗教という名を隠れ蓑に「金儲け」をするために作られた営利団体のことを指しますので、誤解のないようにお願いしますね。

この新興宗教に見事に心のスキマを突かれてしまったさくらは、一信者の枠を超えて新興宗教にハマってしまうのです。

遂には、代表者の名義貸し事件に関与してしまい、全国指名手配犯として有名人になってしまうのでした。

 

第3巻では、当時問題になっていた「アヤシイ宗教団体」を取り上げて、それに鈴木家が巻き込まれる模様を描いています。

作中、読んでいても「ナルホド…」と納得してしまうような、もっともらしい理屈で鈴木家を懐柔する宗教団体。

しかし、蓋を開けてみれば、結局は単なる詐欺集団であったことが判明するのですが。

ただ、この新興宗教によって、母親だけでなく長女の昌子が心のスキを狙われてしまい、結果、家から一歩も出られないような精神病に罹ってしまうのです。

 

わたしは無宗教ですが、もし精神的に弱っている時にこんな甘い言葉で囁かれれば縋りついてしまうかもしれない、そんな巧みな描写は第3巻の見所でもあります。

 

本作の見所④(第4巻 鈴木家&父親・一郎)

最終巻である第4巻は、鈴木家全体がメインとなります。

但し、最終回では父親の一郎がメインで描かれているため、「鈴木家&父親・一郎」としています。

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(©山本直樹/ありがとう 第4巻)

 

本作を評したサイトなどでは、この漫画は「父親の物語である」というレビューを見かけるのですが、わたしはそうは思わないんですね。

確かに、本作の主人公は父親である一郎ですし、「家族ため」に必死で奮闘する姿も沢山描かれています。

でもですね、彼の言動に「共感できる部分」があまりないのです、同じ父親として。

家族のために必死になるのは理解できるのですが、彼の言っていること・やっていることの大部分が「独りよがり」に見えて仕方がなくて、リアル感がないんですよね~。

ですから、まぁ「漫画としての父親」が活躍する作品だと思って読んでもらうのが丁度イイだろうと思っています。

一方で、長女・次女・母親が陥るトラブルは、現実的にどこの家庭でも起こり得る出来事なので、むしろこちらの方に注目して読んでもらった方が面白いだろうと思うのです。

いくら家族であっても、最終的に問題を解決できるのは「自分自身だけ」なのですから。

【第4巻 あらすじ】

イジメを受け続けても学校に通っている貴子に友達(ボーイフレンド)ができます。

彼の名前は「書原(かきはら)」と言い、実は、彼もイジメの被害者です。(貴子が受けているイジメとは別のイジメ)

この書原くんは、昌子・貴子とはまた違ったタイプのイジメられっ子で、「逃げ出した昌子」、「挑んだ貴子」とは異なる「報復した書原」として登場します。

まぁ報復というよりも、イジメに耐え切れなくて相手を殺してしまうことになるのですが…。

問題は、殺人後に、彼が鈴木家に転がり込んできてしまったことで、鈴木家は、またまた厄介ごとに巻き込まれるハメになってしまうのです。

登校拒否と精神病により家から出られない長女・昌子。

イジメ被害と殺人者(ボーイフレンド)を匿う次女・貴子。

宗教団体による名義貸し事件で指名手配犯の母・さくら。

殺人を犯して鈴木家に転がり込んで来た中学生・書原。

そして、父・一郎自身にも、抗うことのできない「ある現実」が忍び寄っているのでした…。(この点については、本作のラストで判明します)

 

最後のネタバレはしませんが、最終的には、各人がそれぞれで「進むべき道」を選択することになり、ようやく「普通の家族」としての平穏が鈴木家にも訪れます。

しかし、最終的に彼らが選んだ「鈴木家の形」は、普通の家族の形とは異なったものとなります。

 

最終巻である第4巻は、いわゆる「ハッピーエンド」へ向かってストーリーが進行していく感じになりますが、果たして、本当にハッピーエンドと言えるのかどうか?は、読み手である「あなた次第」でしょう。

当時の世相も絡めて、絶対的な答えのない「家族とは?」という難しいテーマを題材にしていますので、それも致し方ない終わり方だろうと思います。

ただ、鈴木家の「家族の形」としては、この終わり方が最も良かっただろうと思いますし、少しヒネリの効いたラストとして、余韻が残る良い終わり方だったと感じました。

 

難しいテーマの漫画だからと言って、作品自体を難しく考える必要はありません。

本作「ありがとう」を読み終わった後に、自分の家族や大切な人のことを思い浮かべてもらえれば、多分それが、この漫画を堪能できた証明となるでしょう。

一昔前に比べ、「家族の形」や「家族の絆」が希薄に感じる現代だからこそ、本作のような漫画が、少しでも多くの方々の目に触れれば幸いです。

 

【ありがとう】

鈴木一郎(父)が単身赴任から帰ってみると、母はアルコール漬け、姉はクスリで朦朧としセックスやり放題。愛と平和、セックスと暴力――「家庭」こそが、第3次大戦の戦場だった。大反響を呼んだ20世紀最高最後のネオ・ホームドラマ!!

 

さて、数多くの作品を描かれている山本先生ですが、わたし的には成年向けの「エロ漫画家」さんとしての印象が強いのです。

「森山塔(もりやま とう)」というペンネームで描かれた「とらわれペンギン(辰巳出版 1986年)」とか「キはキノコのキ(司書房 1986年)」なんて作品は、若い頃お世話になった記憶があります。

そんな山本先生が、本作の前にスピリッツで描かれた「僕らはみんな生きている(全4巻)」を最後に併せて紹介します。

【僕らはみんな生きている】

原作を一色伸幸先生が担当。5日間の海外出張に出かけたサラリーマンが、テロに巻き込まれるなど帰国不能に陥りますが…最後に大どんでん返しが…。
山本先生の妖艶な作画も相まって、隠れた名作として名高いビジネスマン画です。

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